なぜ「社内MBA」なのか── 10年・10期続くリーダー育成プログラム 「NGA」の全体像

150名を超える修了生を輩出した、ある「仕組み」の話

「次世代リーダーの育成」は、多くの企業が掲げるテーマです。しかし、それを10年にわたって一貫した設計思想で実行し続けている企業は、決して多くありません。

グローバル医療機器メーカーA社では、2015年に社内リーダー育成プログラム「NGA(Next Generation Academy)」を立ち上げました。以来、毎年1期ずつ実施を重ね、2026年現在は第10期が進行中。修了生は累計で150名を超え、その多くが事業部長やマネジャーとして組織の中核を担っています。

Human Matureは、このNGAの企画設計から講義運営まで、10年にわたりA社の人事部門と共に走り続けてきました。本シリーズでは、このプログラムの設計思想、各モジュールの内容、そして10年の中で見えてきた「リーダーを育てるとはどういうことか」について、3回にわたってお伝えします。

外部MBAスクールが解決しきれない「3つの壁」

A社がNGAを構想した背景には、社外のMBAプログラムや研修では乗り越えにくい構造的な課題がありました。

第一の壁:ナレッジが個人に留まる

優秀な社員を外部のビジネススクールに派遣しても、そこで得た知識やフレームワークは、基本的にその個人のリソースとして完結します。学んだ内容が組織に還元される仕組みがなければ、投資に見合うリターンは得られません。

第二の壁:理論と実践の断絶

MBAで学ぶフレームワークは普遍的で強力ですが、「自社の事業にどう適用するか」を橋渡しするプロセスが抜けがちです。教室の中で完結する学びは、現場に戻った瞬間に「で、どうするの?」という壁にぶつかります。

第三の壁:リーダーシップ・パイプラインが育たない

単発の研修では、組織として「次のリーダーが継続的に輩出される仕組み」にはなりません。「誰を、いつ、どのような経験を通じて育てるか」を体系化しなければ、次世代リーダーの供給は常に不確実なままです。

NGAは、この3つの壁を同時に乗り越えるために設計されたプログラムです。

NGA の設計思想 ── 理論と実践の「両輪」

NGAの最大の特徴は、社内講師と外部講師の明確な役割分担にあります。各モジュールは月に2日間の集合セッションで構成され、Day 1とDay 2でまったく異なるアプローチを取ります。

Day 1

社内講師による「実践知」の伝承

A社の現役の事業部長や部門責任者が登壇。リーダーシップ、財務、戦略、マーケティングを「自社の事業で実際にどう使っているか」という視点から伝えます。経営の最前線に立つリーダーが自らの判断プロセスを言語化し、次世代に手渡す行為です。

Day 2

外部講師による「理論知」の提供

Human Matureが外部講師として登壇し、各テーマに関する経営理論やフレームワークを体系的に講義します。Day 1の実践知を受けた上で理論を学ぶ順序により、学びの質が格段に上がります。

なぜこの構造が効くのか

社内講師が先に登壇することで、「外の世界の理論を学ぶ」のではなく「自分たちの仕事を深く理解する」というマインドセットが生まれます。そして、Day 2で理論的な裏付けを得ることで、実践知が単なる「経験則」から「再現可能な方法論」に昇華されます。

さらに重要なのは、このプロセスを通じて社内にナレッジが蓄積されるということです。社内講師が毎年コンテンツをアップデートし、修了生が次の期の社内講師として登壇する。この循環が、外部MBAでは実現できない「組織としての知」の蓄積を生み出しています。

6つのモジュール ── 12ヶ月の学びの全体像

NGAは、以下の6つのモジュールで構成されています。

# テーマ 位置づけ
1 リーダーシップ すべての基盤。「胆識を磨く」ための思考法と行動指針
2 ファイナンス 経営判断の共通言語としての財務リテラシー
3 戦略 事業環境を読み解き、勝ち筋を描く力
4 マーケティング 顧客価値の創造と市場へのアプローチ
5 人材・組織マネジメント 人を活かし、組織を動かすリーダーの技術
6 ビジネスモデル/イノベーション 既存事業の変革と新たな価値創出

各モジュールの間には約1ヶ月のインターバル期間が設けられています。この期間は「休み」ではありません。実践的な課題に取り組み、次のモジュールへの準備を行う——つまり、教室での学びを現場で試し、その結果を持って次のセッションに臨む、というサイクルが12ヶ月にわたって回り続けます。

「知識」ではなく「胆識」を育てる

知識 → 見識 → 胆識

知識(Knowledge)は、本や講義から得られます。見識(Insight)は、知識に経験が加わることで生まれます。しかし、リーダーに求められるのは、不確実な状況の中でも判断を下し、行動に移す力——すなわち胆識(Courage with Wisdom)です。

NGAの12ヶ月は、この「胆識」を段階的に鍛えていくプロセスとして設計されています。モジュール1でリーダーシップの基盤を築き、モジュール2以降で財務・戦略・マーケティング・組織・イノベーションという多面的なビジネススキルを積み重ねていく。そして、各モジュールのインターバル期間に現場で実践し、次のセッションで振り返る。この繰り返しが、「知っている」を「できる」に、そして「できる」を「やり切る」に変えていきます。

「リーダーシップ・パイプライン」という発想

A社がNGAに10年間投資し続けている理由は、単に「研修を毎年やっている」ということではありません。NGAは、組織としてのリーダーシップ・パイプライン——つまり、次世代リーダーが継続的に育ち、組織の要職を担っていく仕組み——を構築するための基盤です。

毎年15〜20名の選抜メンバーが12ヶ月のプログラムを修了し、その中から次の事業部長やファンクションリーダーが生まれていく。修了生同士のネットワークは期を越えて広がり、組織横断的な協働を促進する。さらに、修了生が次の期の社内講師として知見を還元する循環が生まれる。

これが、「研修」ではなく「仕組み」としてのNGAの姿です。

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NGAの最初のモジュール「リーダーシップ」を取り上げます。なぜリーダーシップがすべてのモジュールの土台に置かれているのか。「胆識を磨く」ために具体的にどのようなアプローチを取っているのか。プログラムの核心に迫ります。
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